岐阜地方裁判所 昭和48年(ワ)457号 決定 1978年12月21日
原告 別紙目録記載の原告二万五、二〇四名
右訴訟代理人弁護士 由良久
同 清田信栄
同 小出良熙
被告 水資源開発公団
右代表者総裁 山本三郎
右訴訟代理人弁護士 片山欽司
被告訴訟復代理人弁護士 入谷正章
被告指定代理人 松村利教
<ほか六名>
主文
本件につき、原告訴訟代理人弁護士由良久、同清田信栄、同小出良熙に対し、別紙目録記載の原告二万五、二〇四名につき、昭和五四年九月二〇日かぎり公証人の認証ある原告訴訟代理委任状を提出すべきことを命ずる。
理由
一 本訴は、長良川流域住民、流域各漁業協同組合、同組合員、鵜飼の鵜匠、船夫、旅館業者ら、以上総数二万六、六〇五名(訴状添付の当事者目録による。その後二万六、〇三五名に訂正されている。)が長良川河口堰建設により、環境権人格権を侵害されるとして、その建設事業の差止を求め、また、以上に加え、各漁業協同組合、同組合員が漁業権ないし漁業を営む権利の侵害を、鵜匠、船夫、旅館業者がいずれもそれぞれのいわゆる営業権の侵害を理由として、建設事業の差止を求めるものであり、頭書の弁護士三名が右原告らの訴訟代理人として、本訴を提起追行していること、被告が右原告中、漁業協同組合六名、同組合員等一〇六名、鵜匠六名、船夫一五名、旅館業者一名、以上合計一三四名を除く別紙目録記載の原告ら総数二万五、二〇四名についての訴訟代理権を否認していることは、本件記録に徴して明らかである。
二 当裁判所は、以下の理由により、原告ら代理人に対し、被告が代理権を否認する右原告ら二万五、二〇四名全員について、民事訴訟法八〇条二項による公証人の認証ある訴訟代理委任状の提出を命ずるのを相当と考える。
(1) 当裁判所の調査により、原告ら代理人提出の本件訴訟代理委任状(委任状の様式は後記のとおり。)には、六一〇名ほど重複して記載されていることが判明した(したがって、訴状添付の当事者目録についても、同様の重複があるが、これについては、後に原告ら代理人において訂正し、現在当事者目録での重複は解消されている。)。のみならず、昭和四九年五月中、数次にわたり、原告本人自身から直接当裁判所にあて提出された訴の取下書一二通(原告数六五名)の中には、「町内広報会長の依頼により河口堰建設反対の陳情書と思って署名したにすぎなく、原告となっていることを知って驚いている。裁判をする意思は全くない。」その他同趣旨の記載のあるもの三通(原告数一三名)が含まれている。しかして、本訴の訴訟代理委任状の様式は、藁判紙大(B4判)の用紙に、委任状と題し、前記三名の弁護士氏名、同弁護士に訴訟代理権を授与する委任文言被告の氏名、当庁の表示、事件名、委任事項がいずれも不動文字で印刷され、これに続き、縦の罫線で二〇行、すなわち一通で二〇人分の原告の住所、氏名、押印欄のある連記方式がとられているところ、各原告らの住所、氏名が手書きで連記され、その名下になつ印がなされている本件委任状二、一四一通の記載を通観すれば、それらはおおむね各町内会等の地域団体毎ないしは家族全員を一団としてなされた形跡が看取され、以上の諸事実を彼此合わせ考えると、本件委任状の署名なつ印は、訴訟委任の趣旨でなく、単なる署名運動ないしは陳情書程度のものとの認識のもとになされたものが多数混在しているとの疑問を持たざるを得ず、しかも、これを判別し得る資料もない。
(2) 当裁判所は、本決定に先立ち、昭和五二年一二月二二日原告ら代理人に対し、一四名の原告につき、公証人の認証ある訴訟代理委任状の提出を命じたが、これに応じなかったので、右原告につき、昭和五三年五月二九日訴却下の判決をし、該判決は控訴なくして確定した。このほか、本件委任状及び当事者目録記載の住所によると、原告らの中には、長良川の西側を流れる揖斐川のさらに西方に所在する岐阜県不破郡垂井町在住者が存し(因みに、前記却下判決一四名の原告中にも、同じく同県養老郡養老町在住者及び長良川の東側を流れる木曽川のさらに東方に所在する同県多治見市在住者が含まれている。)、いかなる意味でも流域住民と目されぬ者が含まれる。また、さらに、本件委任状と当事者目録との対比照合の結果は、両者間に、住所氏名において約七〇〇個所以上に及ぶ大小さまざまなそごが見られ、同一人かどうか同一性判定に困難なもの、例えば、「大島と大亀」、「日置と日星」、「舟井と角井」、「棚瀬と棚橋」、「地洞と北洞」、「徳二郎と徳市」、「吉三と吉衛」、「房成と房哉」など相当数存在することに照らし、当事者の明確な確定作業にも不十分さが見られ、以上の諸点もまた、訴訟委任の意思の存否を疑わさせる。
三 以上の理由により、本訴原告ら代理人三名に対し、民事訴訟法八〇条二項に基づき、別紙目録記載の原告ら二万五、二〇四名につき、公証人の認証ある訴訟代理委任状の提出を命ずることとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 菅本宣太郎 裁判官 三宅俊一郎 水谷正俊)
<以下省略>